この記事でわかること
食料の安定した供給は食品産業従事者による事業継続の努力が求められます。緊急事態が起きたとき、食品を扱う企業が被害を受けたとしてもメイン業務をとめず、止まったとしても早くに復旧することが必要です。政府も推進している、食品産業におけるBCP策定と実行について解説します。
食品業界でのBCP対策例
自然災害や感染症の広範囲での流行など、緊急事態が発生したときでも変わらず食品の製造、販売を行うことがBCP対策を立てる目的です。具体的な例をあげて紹介します。
商品数を絞る
緊急時に全ての商品の製造を続けることは難しいため、利益を期待できる商品に絞ります。例えば同じ飲料でも複数の味や容量のタイプを製造していれば、過去の販売量や市場動向を参考にして主力商品の製造に力を入れると良いです。
非常時の炊き出しに使える商品を優先
一般家庭用と業務用の製品をつくっていれば、その種類は膨大なものです。しかしそのすべてを緊急時にそろえ続けることは難しいため、いくつかに減らして製造を続けます。
災害時であれば炊き出しにも使えそうなタイプの製品をメインに製造を続けると、事業継続に役立ちます。
災害時には現場が判断する権限を与える
実際にあった例として、大規模災害にあったパン製造業の配送者が移動できなくなり、同じように道路で止まっているドライバーたちへパンを配布したことがあります。これはその製パン会社が配送ドライバーに対して、災害時消費期限の迫った場合は独自の判断で周囲へ配ることを許可していたためでした。
またもし食品製造工場が被災したとき、自社で炊き出しをして周りの会社や施設を助けたいとの声もあります。これらもBCP対策の一環です。
緊急時と通常時では需要が違う
普段の売上や市場動向を参考にして緊急時の製造種類を絞ると、実は売上が思わしくない場合があります。それは、災害時と通常で必要とされる食品のタイプが違うためです。BCP対策にはその違いを踏まえて内容を決定することがおすすめです。
災害発生直後
ライフラインが止まると調理ができないため、すぐ食べられるタイプの食品需要が高まります。たとえばパン・おにぎり・水・インスタントめん・野菜ジュースなどで、このときに生ものや水を使った調理の必要な製品は売れないと見込めます。
災害発生4日目以降
この頃から政府や自治体などによる支援が始まり、レンジで加熱すれば食べられる食品や炊き出しに使える食品の需要が高くなります。例えばピザや焼きおにぎりなどのスナック系冷凍食品・調味料・のり・ふりかけなどがあります。まだ生ものや水が必要な製品は売れにくい状況です。
ただし炊き出しと言えばカレーやシチューを想像しがちですが、災害時の炊き出しメニューには脂が多く粘り気も強いため、調理後の処理が大変になり適していません。それよりも豚汁やちゃんこ鍋など汁気の多い食品の方が望まれます。
災害7日目以降
次第にライフラインが復旧し、生ものや水を使った調理を必要とする食品の需要も出始めます。1週間近く、すぐ食べられるものばかり続くと飽きてしまうことも理由のひとつで、栄養があるものがよく売れるようになると言われます。また、ゼリー・味のついたヨーグルト・乳酸菌飲料の需要も高まる頃です。
製造工場の稼働を止めない対策を
食品製造業のBCP対策では利益の元になる食品の製造を止めないことが重要なため、工場の維持や早期復旧が欠かせません。
生産アイテムの分散
工場ごとに生産アイテムを限っていると、その工場が被災した場合、製造がストップしてしまいます。もし主力商品であれば供給が追い付かず売り逃しが起きて利益を失うでしょう。
そうならないためには、いくつかの工場に分散して製造することがBCP対策のポイントで、主力商品だけでも分けておくことがおすすめです。
しかし規模の小さな会社では分散するだけの工場を持たない場合もあります。そのときには工場の稼働を止めないことを重視した建物に対するBCP対策に力を注ぎましょう。
建物の強化にはまとまった費用がかかるため、小規模な食品工場ほど投資が難しいものです。しかし地域によって補助金があるため、会社のある地域の自治体で助成金を受けとるチャンスがあるか調べることをおすすめします。
同質の材料を海外に頼る
原料を供給する会社が被災した場合は、海外などその他のルートから供給を受けられる準備をしましょう。そのためには平常時に、自社に近い管理体制をとっており、且つ品質も同程度の製品をつくる海外企業とのつながりを持っておくこと。海外拠点で代替製品の製造が可能であれば、いざというときに原料をわけてもらうことも可能です。
まとめ
食品産業は災害時でも安定した食料品の供給が求められており、それができれば企業への信頼が高まります。そのためにBCP対策は必要で、もしも材料が手に入らなかったらどこに依頼するか、災害に負けない建物にするための内容などを実施します。また、緊急時と通常時では需要が異なることも把握し、自社の製品はどれを優先すべきか決めておくことです。