廃棄されていく命

ジビエ料理

皆さんはジビエ料理を食べられたことはありますか?

猪や鹿、熊等、あまり一般的ではないお肉料理のため、馴染みの少ない方も多いのではないでしょうか?

それでも昨今ではジビエを提供する飲食店が増えました。
2014年に厚生労働省による「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」、2016年に「鳥獣被害防止特措法」が一部改正され、ジビエ利用について明記されたことが理由として挙げられます。改正がなされるほどにジビエ利用を推進しているのには理由があります。
近年、野生鳥獣に起因する被害が非常に深刻な問題となっているためです。

農作物被害額のピークは年間239億円

具体的にどれほどの被害が出ているのか。
農作物の被害額は、※1「平成22年度の239億円をピークに、近年200億円前後で推移してきましたが、平成25年度以降、5年連続で減少し、平成29年度の農作物被害は被害金額で約164億円」。全体の7割が鹿、猪、猿によるものです。
森林の被害もあります。※2「平成28年度の森林の被害面積をみると全国で約7千haとなり、このうち鹿による枝葉の食害や剥皮の被害が8割を占め」ており、この面積は東京ドームの大きさに換算した場合、およそ1500倍に相当します。
こうした被害は※3「営農意欲の減退につながり、耕作放棄や離農の増加をもたらしています。さらには、森林の下層植生の消失などによって土壌が流出したり、希少植物が食害されたり、また車や鉄道車両との接触・衝突事故などの被害ももたらしており、被害額として数字に表れる以上に農山漁村に深刻な影響を及ぼしているのが現状」なのです。

このような背景があり、野生鳥獣の捕獲が推進されています。
そうして捕獲された鳥獣がジビエ料理として提供されることになりますが、ここにも問題はありました。

ジビエ料理に利用されているのはわずか1割

廃棄されるジビエ

廃棄されるジビエ

捕獲された鳥獣のうち、食肉用として有効に利用されているのはなんと全体の1割程度。
残り9割の鳥獣は、埋設・焼却により廃棄処分されているのです。
これほどまでに廃棄されてしまうのには理由があります。
牛や豚などと違い、猪や鹿は肉として扱われる法律の区分が違うため、処理できる加工施設の数が少ないのです。
捕獲され運び込まれても肉の処理能力を超えてしまう場合や、施設が遠方にあり運び込まれた時には傷んでしまっている場合などの理由から廃棄せざるをえないケースが多々あるのです。
また世間のジビエ肉に対するイメージは臭い、固いなどネガティブな要素があり、需要が少ないのが現状です。
こうした理由から捕獲しても消費しきれず、廃棄されてしまうのです。

設備投資とイメージアップが必要

このような状況を打破するため、国は動き出しています。
ジビエの利用拡大が加速するよう、捕獲から搬送・処理加工がしっかりと繋がったモデル地区を12区程度整備し、ジビエ利用量を倍増させる対応が検討されています。

鶏肉

野鴨

さらにジビエ利用に意欲的に取り組む地域からの相談や要望に対応するため、民間等のノウハウを活用し、官民連携した支援体制の構築も検討されています。

鳥獣たちは悪意をもって繁殖し、人間に被害をもたらしているわけではありません。
とはいえ、多大な被害が出ている以上、対応をとらざるを得ない部分もあるでしょう。
肝心なことは、そうして奪われた命をただ廃棄するのではなく、きちんと食してあげる。
これが重要なのだと思います。

※1,2,3の文章は農林水産省より公開されている「鳥獣被害の現状」から引用させていただきました。